忍ミュ第10弾で描かれていたもの

忍ミュ第10弾、東京公演と愛知公演を観てきました。
第10弾、文句なしの大満足な仕上がりでした。大変なこともありましたが、そんなことも含めて今年は特に強烈に記憶に残る年になりそうです。
感想はTwitterにて書いたので、こっちでは忍ミュの過去作品と比較して第10弾を紐解いていきます。
(私は第5弾再演以降しか劇場で観たことがないにも関わらず、こんな記事を書いてしまいました。申し訳ない)


【この記事は第10弾のネタバレを含みます】


忍ミュ第10弾は「忍ミュの最適解」であり「忍ミュの総決算」であった。第10弾は忍ミュはついにここまできた、と思わせる作品であり、忍ミュがこれまでに積み重ねてきたものが描かれていた。
忍ミュ第10弾で描かれていたものは何か?



忍ミュ第10弾を紐解くキーワード

まず最初に、第10弾を紐解くキーワードを導けそうな歌詞をいくつか引用する。

地図にはないこの道を 肩並べ駆け抜けよう

同じ空の下 同じ時の中
共に歩み 時を刻み


そして

忍びの道を 生きる我ら
戦乱の世を 駆け抜けろ
忍びの道を 生き抜くために
愛しき人を 守るため

勘の良い方はここで既に気付かれただろう。
これらの歌詞から導かれるキーワードは「生きる」だ。



第10弾に限らず、忍ミュではたびたび「戦乱の世を生きる忍タマたち」「忍タマたちよ、戦乱の世を生き延びろ」と語られる。
それはなぜか? なぜならそれはドラマになるからだ。

忍たまという作品の魅力の一つに、「戦国乱世というシビアな時代に生きる少年たちを描いた作品」「忍者という闇に忍び生きる生き方を選び、忍者を志す少年たちを描いた作品」がある。
これらはファンの間で、もっといえば二次創作界隈、同人界隈でよく言われていることだ。なぜならそれはドラマになるからだ。

あなたの推し忍タマも戦乱の世をどうにか生き延びようともがき、前へ進もうとしている。そう聞くと推しのことがいっそう愛おしくなるでしょう。それが「ドラマになる」ということだ。
忍ミュは忍タマたちが生きる時代のシビアさ、忍者として生きることのシビアさを前面に描いている。もはや言うまでもなく、それらはドラマになるからだ。


忍ミュ第1弾初演では「(同じ時代を生きる仲間と)共に生きる」と言及されていた。
これは第10弾でも先程引用したように、「同じ空の下 同じ時の中 共に歩み 時を刻み」と言葉を変えて言及されている。

第1弾では「共に生きる」と仲間たちと厳しい戦乱の世を「生きる」ことそのものが描かれている。


では、何のために、なぜ「生きる」のか??



忍タマたちが「生きる」理由

忍タマたちが生きる理由は「戦乱の世をどうにか生き延びなくてはならないから」というのもある。確かにある。
では、忍タマたちはどうして戦乱の世を生きなくてはならないのか?


もう一度ここで第10弾の「愛しき者よ」の歌詞を引用する。

忍びの道を 生きる我ら
戦乱の世を 駆け抜けろ
忍びの道を 生き抜くために
愛しき人を 守るため

「忍びの道を生き抜くために」、そして「愛しき人を 守るため」に「戦乱の世を駆け抜けろ」と述べている。


ここで第10弾初見時の私の感想ツイートを引用させて頂こう。

「愛しき人を守るため……」の歌、「推しは世界のために死んでほしい」と言っていた私に「己が生きていなくては守りたい者を守れない」と教えてくれた。大切なものを守るには生きていないと守れないんだ。

最近の口癖が「推し~!! 世界のために死んでくれ~!!」(推しは世界のために己の命を捧げて何かを成し遂げてほしい、死ぬ気で何かを成し遂げて欲しいの意)だった私に、第10弾は意を唱えてくれた。
愛しき人を守るには、自身が生きていなければ守りきれない。死んでしまえば守りたいものも守れない。
愛しき人を守るには、己が世界を守るには、己が生き延びなくてはそれはなし得ないのだ。



と、ここまで述べたが、現時点で私のこの意見に「生きるためには存在意義を求められるのか?」「私の推しは、私は何かを成さなくては生きる資格はないのか?」と異議を唱えたい方もいらっしゃるかもしれない。
そんな方も安心してほしい。忍ミュ第10弾は「愛しき者を守るために闘う」と歌ってはいるが、けして「闘うために、守るために生きろ」と、それだけを我々に伝えているのではない。
それをこれから紐解いてゆく。



伊作と留三郎の共通点

第10弾は劇中で伊作が主人公級の動きをする物語であった……と私は(私も)感じている。そして人を、仲間を助けるために飛び出して行った伊作を待つ留三郎も。
ここで考えてほしい、伊作と留三郎の共通点は何か?
「六年は組の同室」、そして第10弾のラストシーンで留三郎が歌う「桜咲く空の下へ」の桜の花に象徴されるように二人とも「春生まれ」。もう一声!

そう、伊作と留三郎は二人とも「牡羊座生まれ」。
伊作と留三郎の二人は、草木が芽吹き、生き物が目覚め、桜の花が咲き誇る頃、そして忍術学園に入学した頃に誕生日を迎える。


今回も懲りずに、星占い*1の話をする。どうか許してください。

牡羊座は「勇気」を象徴する。牡羊座が象徴する勇気とは何か? 勇気とは、己が傷つくことを厭わず、恐れを捨て前へと踏み出し進むことだ。
伊作は乱太郎を守るため脚を怪我してもなお土寿烏と闘い、留三郎との約束を果たすために痛む脚を引きずりながらも前へ進んだ。そして、愛知公演では留三郎も。

十二星座の一巡りの先陣を切るのが牡羊座という星座だ。牡羊座は己が踏み出した先に何が待ち受けているのか、それらを不安に思い足がすくむ前に一歩を踏み出し、前へと進む。牡羊座は道なき道を切り開く。

ここで思い出すのは、忍ミュ第9弾で伊作と留三郎が(も)歌った「希望の道」の歌詞の一節だ。

俺たちもそうさ いつだって今も
いつでも道は拓けるよ 希望の道 歩こうよ

山々はそびえ そこに道はない
道標はどこにあるの? それでも歩き続ける

伊作と留三郎は「目の前に道は無くとも恐れずに、勇気を出して前に進もう。いつでも道は拓けるのだから」と先輩の立場として後輩の五年生たちに伝える。
第10弾の伊作と留三郎は牡羊座の星の元に生まれた二人であり、第9弾で五年生たちに「目の前に道は無くとも前に進もう」と伝えた二人だった。


さらに言うと、私は第9弾は「魚座雷蔵魚座の段階を経て牡羊座のステージへと進んだ物語」だと考えている。
第9弾は十二星座の一巡りの旅の最後を飾る星、魚座の星の元に生まれた雷蔵魚座が目指す「無条件で信じる」ことを達成し、一年を巡り再びいのちが芽吹く牡羊座のステージへと「勇気を持って」前に進んだ物語だ(私は第9弾の亡霊なのですぐ第9弾に結び付けたがります。面目ない)。

第9弾は魚座雷蔵が、牡羊座の六年は組の二人の先輩から「生きていこうよ、希望の道はいつでも拓けるよ」と教えられ、雷蔵魚座から牡羊座へのステージへと進む話だと解釈しているのだけど、第9弾のタスキを受け取った
第10弾は、牡羊座の伊作と留三郎の話。一巡りしてまた春が来た。

忍ミュの全ての始まりとなる第1弾は、十二星座の始まりの牡羊座生まれの留三郎が主人公の物語だった。今思えば、留三郎は忍ミュの始まりを飾るのにふさわしい人物だった。
第9弾で魚座のステージにまで到達した忍ミュは、一巡りして第10弾で再び伊作、そして留三郎が管轄する牡羊座のステージへと戻ってきた。


星占いでは、十二星座の一巡りは人間の一生を表すと考えられる。
十二星座の始まりの牡羊座はこの世に生を与えられ、この世に存在する段階。一個人の心身の発育を経て「わたし」に対する「あなた」の存在を知り、社会を知り社会で生き、そして魚座の段階で一生が終わり次のスタートへの準備をする。
第10弾の伊作と留三郎は、第1弾の伊作と留三郎とは違う。第10弾の伊作と留三郎は「忍ミュ」のキャラクターとしてこの世に生を受け、数々の冒険を経験する事で己の心身が成長しひとと関わり世界と関わり、一巡りしてきた伊作と留三郎なのだ。



伊作は生を肯定する

第9弾で伊作と留三郎が五年生に伝えた「希望の道」とは果たして何か?

明日への夢 抱きながら
希望の道 歩こうよ


私が思うに、希望の道とは「生きることそのもの」、つまり「人生の旅路」である。
目の前に道は無けれども、誰にも行く末はわからなくとも、「明日への夢」を抱きながら、今日という日を一歩、また一歩と歩む。
「人生の旅路」は「希望の道」。あなたが生きている、生きているそれ自体が希望へと繋がっている。
だからこれからも生きていこうよ、前へと足を踏み出そうよと伊作と留三郎は背中を押してくれる。



牡羊座は「生の肯定」を意味する。
牡羊座の瞬発力は「この世に生を受けて生まれてきた」パワーそのもの。12星座の巡り方を人間の一生に例えたら、牡羊座はこの世に生を受けた赤ん坊の段階。この世に生を受け生まれてきた命は全て祝福されるべきである。
魚座の「全てを信じる」「全てを受け入れる」段階を経た牡羊座は「この世に生を受け生まれた命は全て祝福されるべき対象」だと知っている。


伊作は運動会の競技中に敵チームの、ひいては敵対勢力に属するドクタケ参の火傷の手当てを迷わずにした。長次の叫び声を聞いたとき、真っ先に相手チームの長次のところへと向かおうとした。
伊作は敵でも味方でも関係なく、病人・怪我人のところに弾丸のようにすっ飛んで手当てをする。伊作は潜在的に「この世に生を受けた命は全て守られるべき」だと知っているから。伊作は人間と闘うのではなく、人間の命を奪う病と闘う。




伊作は「この世に生を受けた全ての人間の命」を肯定するために、ひとの命を守る。
ひとの命を守るために伊作はこの戦乱の世を生き抜き、闘う。

*1:この記事では西洋占星術を指す。