白血病になったオタクの話

突然ですが、私は白血病を患っています。


白血病を患っているといっても、フィクションに描かれるようなドラマティックな物語はお伝えできません。
全く読み物映えしない非常に地味な闘病生活を今日に至るまで送っているのですが、病を患ってもネタにならないのは悔しいので「オタクが白血病を患うとこうなる」という一例をこの場でお伝えしようと思います。

現在は治療により寛解(病気を抑えることができている状態)に至りました。


登場人物
  • 文次郎(もんじろう)



今から遡ることX年前――。

当時学生だった私は、卒論を書くために図書館に通っては文献を片っ端からあたり、資料を集めるという生活をしていた。

当時の私はある問題に悩まされていた。それは――頻発する頭痛。
当時の私は頻繁に、頭痛とそれに伴う吐き気に襲われていた。目を温めても肩を温めてもこめかみを冷やしても、頭痛が和らぐことはない。
半端なく低気圧に弱いのか、風邪なのか。それともパソコンの使いすぎによる眼精疲労か、はたまた肩凝りから来るものなのか。頭痛の原因はわからなかった。
ひとたび頭痛が起きると何も作業ができなくなるため、一日中ベッドに横になることも少なくなかった。
寝ている時はやることがなさすぎて、図書館で借りた落乱を読んでいた。


それと、鼻血が出ることが多かった。
小学生時代に学校で見せられたビデオの、白血病にかかった子が鼻からぽとりと血を落とすシーンが頭をよぎった。



健康診断を受けた病院から電話がかかってきた。
告げられたのは、白血球の数が通常より多い、ということ。

風邪をひいていたり疲れていると白血球の数値が上がると教えてもらった。
冬のことだったので「たぶん風邪だと思います」と返した。



卒論を完成させ無事に卒業し、就職先で健康診断を受けた。

ある日の夕方、職場に一本の電話が入った。
「前回の健康診断からさらに白血球の数が増えているから、精密検査を受けてこい」といった内容だった。


ああ、やはり私は病気なんだ――。
それを聞いた途端に血の気がさっと引き、その場でくらりと倒れそうになった。



紹介された病院で検査を受けた。
腰骨に針を刺し、骨の中身を吸う検査だった。
痛い検査だと脅されたが、どちらかといえば吸われている感覚が気持ち悪かった。



検査の結果、慢性骨髄性白血病と診断された。


帰り際に看護師さんから「がんばりましょう」と励まされた。
病院で告げられる「がんばりましょう」ほど静かで重い声援はない。病院で聞くこの言葉は、他の場所で聞く声援とは全く違う意味を持っていた。



白血病はいくつかの種類に分かれていて、私が発症したのはそのうちの一種。
同じ白血病と名が付いても、種類によって発症する原因も治療法もそれぞれ違う。同シリーズのゲームの別タイトルくらい別物。ストーリーが違えば攻略法も違う。
そして、発症してからの人生の歩み方も。



病気を告げられた時はさほどショックを受けなかった。

その理由の一つは、精密検査をすすめられた時点で既に病気を覚悟していたから。
(「血中の白血球の数が異様に多い」と事前に告げられていたので)


そしてもう一つは、病気を告げられたその日は 私の最推しの文次郎が(ライバルの留三郎と一緒に)歌うキャラソンのリリース日だったから。


私は文次郎の声に惹かれて忍たまを見始めたオタク……といっても過言ではない。
そんなオタクにとって、文次郎のキャラソンが作られたという事実はまるで夢そのもので、とにもかくにも信じられない話だった。
少しでも運命の歯車が違えば「文次郎のキャラソンが作られる」というルートは存在しなかったはずなのだ。これを奇跡と言わずに何と言う。

しかもそのキャラソンがとんでもなくかっこよかった。全力で、直向きで、何がなんでも生きようとしていて。
ライバルと共に切磋琢磨しながら己と闘い、どうにか生き延びようとする歌だった。

家に向かう車に揺られながらこの歌を思い出し「私もこれから闘いに身を投じることとなったのかもしれない」と考えた。



治療の方法は、経口薬による服薬治療。
一錠4,700円ほどする薬を毎日2錠服用する。
健康保険を使うと自己負担額は三割になるので、実際に支払う金額はもっと安くなる。
しかし、ここにさらに病院での治療費が足される。


寛解には至れど、完治することはない。
症状を抑えるために生涯 薬を飲み続けなければならない。

つまり……最低限生きていくために生涯に渡りかかる費用は合計でいくらになるんだ?
考えたくないから計算したことはないけど……。



がん保険では経口投与による薬での治療は「症状が軽い」とみなされ、保障の対象にならない。
(治療をすればほとんどの人が生き長らえることができるため、保険金支払いの対象にしたら保険会社が赤字になるからだろう)
私が発症した病気では保険金が出なかった。
そもそも、がん保険に入っていなかった。




オタクという趣味はとにもかくにもお金がかかる。
書籍にDVDにグッズの数々。私は忍ミュも観に行くので、チケット代に交通費や宿泊費等の遠征費。


資本主義国家・日本で発展したアニメ・マンガ・ゲーム等の娯楽産業は、消費者の購買意欲を掻き立てるために次から次へと魅力的な商品を世に出す。

私の推しもそれはそれは魅力的なキャラクターだけど、魅力的ゆえに公式*2に金のタマゴを産むガチョウになると目をつけられ、資本主義社会にしっかりと組み込まれている。
推しの情報は価値になる、露骨に言うとカネを生むとされている。いわずもがな、私が好きな作品もカネを生むコンテンツとされている。

つまり、推しを享受するには、作品を享受するにはカネがかかる。



私は気付いてしまった。
「オタクという趣味はブルジョアにしか許されていないのではないか……」と。



Q.生きていくだけでカツカツの人間がまず削るべき出費はどれ?

A.娯楽費


そう、現時点で私がまず削るべきはあってもなくても生命維持に問題ない出費。本来は余剰金で楽しむべき娯楽。
しかしオタクは呼吸をするようにコンテンツを消費する生き物なのだ。
空気がなければ生きていけないように、コンテンツを消費しなくてはオタクは生きていけない。

特に観劇。2.5次元舞台であっても観劇という娯楽は紛れもなくブルジョアの遊びだ。



なぜここまで私はカネに執着するのか?


それは私ががめつくてみみっちい人間だから……というのもある。確かにある。


しかし、それ以上に私には命はカネで買うものという意識があるからだ。



先述したように、私は現在 経口投与による服薬治療をしている。
その薬がべらぼうに高い。とんでもなく高い。


今のところ薬を飲みさえすれば症状を抑えることができるのだが、逆に言えば
薬を飲まなければ病気は進行し、いずれ死に至る。


しかし「飲まなければ死ぬ」薬がいかんせん高い。


薬が買えなくなった時、病気の人はどうなるか?
治療を諦め、静かに死を待つこととなる。

薬が高くて買えないため、治療を諦める人も実際にいると聞く。


我々CML(慢性骨髄性白血病)クラスタ界隈には
「金の切れ目が命の切れ目」という言葉がある。
この言葉は誇張でも何でもない。
ただただ現実をそのまま写した言葉なのだ。




けれども反対に、推しを享受すること、コンテンツを享受することが今の私にとっての生きる希望であることもまた事実だ。


忍たまと落乱に「籠城した場合 援軍の来るアテのある城は守りきることができる」という話が出てくる。

必ず自分に救いの手が伸ばされると信じていれば人間は生き延びることができる、という話だ。

この話は作中で、かぶりものがすっぽり頭にはまって抜けなくなったしんべエは 先輩の留三郎が絶対に助けてくれると確信していたから、かぶりものが抜けなくなるピンチに直面してもうろたえずにいれた というエピソードで例えられている。


少し現実離れした話なので、私が以前書いた記事から引用する。

(中略)明日が来るのが待ち遠しいと思える日があった。


明日の予定、忍ミュの観劇に行く日、落乱コミックスの発売日、明日の忍たまの放送、前日の夜にたまご液につけ込んだちょっと変わったフレンチトースト、翌日食べたいもの……etc.

これらの僅かな、そして数時間に及ぶものやほんの数分で終わってしまうものなど様々なほんの些細な楽しみ。そんなたった数分の楽しみを手にするために「明日が早く来てほしい」という願いを積み重ね、結果的に今日まで何だかんだで生き延びることができた。

ぶっちゃけてしまうと自分には大層な夢はない。
けれども些細な楽しみなら、ありがたいことにまだまだ湧いてくる。


「明日の楽しみ」という些細なものも「明日まで生き延びたい」と切実に願う動機となり、救いの手……つまり希望となる。


忍ミュはまだまだ新作を上演してくれていると私は信じているし、落乱もまだまだ連載してくれると信じている。
4月になれば忍たまの新作が放送されると信じている。来年の4月も、再来年も、さらにその先も。


忍ミュの新作を観たい。
忍たまの新作を見たい。
落乱の新作を読みたい。
まだ見ぬ推しを見たい。

これが私の願いだ。
だから私は明日も、また次の日も……と、願いを重ね 一日一日を生き延びようとしているのだ。





病気が完治した訳でもないので問題は何も解決していないし、私の闘病生活はまだまだ続くのですが、キリがないのでこの話はここまでにしておきます。



私が皆さんにお伝えしたいのは

ただでさえオタクは金がかかるのに
病気になるとさらに金がかかるということ。

そしてガンはとても身近な病気だということ。



医療技術は日々 進歩していき、今ではガン(白血病もガンの一種とされることがある)は治療すれば治ることも多々ある病気になっています。


治療すれば治る。治療をすれば生きていける。
ならば治療をしようとすれども、治療をするためにはお金がかかる。


つまり
治療をしながら働いてお金を得る必要が出てくるわけです。


治療をすれば生き長らえることができる。
反対に、治療をしなければ死んでしまう。
治療を続けて生き長らえるためには、お金がかかる。

今は ガンの治療をしながら働くケースも多々あるというわけです。
これは何もCMだけの世界ではないのです。これは非常に身近な現実の話。


ガンは治療しながら働く時代になりつつあるので
電車で隣の席に座った人が実はガン患者、もしくはガンを経験した人(がんサバイバーといいます)ということもありえる。
ガンはそれくらい身近な病気です。



今あなたができること、それは健康診断を受けることと生命保険・がん保険の保障内容を確認することです。


健康診断は受けてください。
特に血液検査。身体の不調は血液に出ます。
病気は早期発見するに越したことはありません。
早期発見をすれば治療の術を選べるかもしれない。


生命保険とがん保険の保障内容、一度 確認してみてください。
ガンと診断されたら保険金が下りるものもあります。
入院保障は数日間続けて入院しなくては保障されないものもあります。



ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
皆さんはどうか、やりたいことがいつまでも自由にできる身体でありますように。




ご意見・おたより お待ちしています。
ブログにてお返事させて頂きます。
(ずうずうしい)
https://odaibako.net/u/iiliLeO

*1:アニメ「忍たま乱太郎」の原作漫画

*2:版権元