第五舞台Ep.2『Double Down』 感想

第五舞台Ep.2『Double Down』を観ました。

Ep.2、上演してくれて本当に良かった。
「今年の冬を乗り越えて春を迎えたら、私はEp.2を観れるんだ」と信じ、今日まで生きてきた。
ついに私の元にも春が来た。今年も無事に冬を乗り越え、春を迎えることができた。
生き延びて、未来へと到達できたこと。まず第一に、私はそれがとても嬉しい。


昨年の3月に第五人格を始めてから、あっという間に二年目の春を迎えた。
第五人格を始めてからのこの一年、本当に早かった。
まさしく情熱のままに駆け抜けていったという表現がぴったり当てはまる。


私に訪れた何度目かのオタクの青春期は彼と共に駆け抜けたいと、そう心に決めた推しも見つけた。
その彼こそが傭兵、ナワーブ・サベダーだ。


これはそんな傭兵推しのオタクの、自分語りが多めになってしまったEp.2の感想文です。

【舞台本編のネタバレあり】
【背景推理等の原作ゲームのネタバレあり】

2021/03/27 第五舞台Ep.2 B公演 配信にて視聴



自分はこれほどまでに無力で弱いのだと、思い知らされる。
自分が過去に犯した"失敗"を突き付けられる。
自分があの時してしまった選択は、"間違い"であったと突き付けられる。
自分が過去に負った傷を、再び直視させられる。

これより怖いことを、私は他に知らない。



己の無力さに打ちひしがれた時、自分が過去に犯した罪を思い出した時、自分は過去に"失敗"したと思い出した時、過去の傷が再び開きかけた時。

そんな時、私は腹の中に重力のあるもやを感じ、息が苦しくなる。
無性に孤独感に襲われ、どこまでも悲しくなる。


Ep.2 B公演はナワーブの心の傷が開き彼が苦しむ度に、私まで過去の傷を思い出してしまい辛かった。
そこそこ本格的に精神に"キた"。


傭兵の外在人格の「複数の傭兵が同時にゲームに入ると、お互いの思い出はパニックを激化し、一人の傭兵が増えるごとに解読速度が○○%低下する」は全く同じ思い出でなくても、もちろん同一人物でなくても発生すると、この身をもって思い知った。

誰かが自分の過去の傷をこじ開けられ直視させられる状況を見るだけでも、癒えない傷を持つ者は自分の傷が開きかけてしまうのだ。


原作ゲームの傭兵の戦争後遺症の描写は、正直なところ全く他人事で見ることができた。

しかし舞台という表現方法で生身の役者さんが演じ、現実世界でその状況が再現されたことで、ナワーブ・サベダーという男は人間の小さな脆い身体ではとても抱えきれないほどの大きな悲しみを、たった一人きりで抱えていたのだとわかってしまった。
悲しみをたった一人で墓まで抱えて生きていくというのは、本当に辛く苦しいことだ。


私はBJモードで遊ぶのが"怖い"と密かに思っていることも、隠していた心の内を引きずり出して見せつけられたような気がした。

「うまく駆け引きができない」弱い自分を突き付けられることが、「自分はこのゲームで勝てない」と己の弱さを突き付けられることが怖い。
皆は平気で楽しそうにBJモードで遊んでいるのに、上手にアイテムを使い駆け引きをするのに、それが「できない自分」を突き付けられるのが怖い。




Ep.2のBJモード実装時の出来事で、ナワーブが苦しめられたことはこれだけある。

1. 過去のトラウマを思い出してしまい苦しい

これは過去の辛い思い出そのものに苦しめられている、という意味での「苦しい」。

もう二度とあんな苦しい思いをしたくないと、記憶の奥底に閉ざしていたはずなのに、再び思い出してしまった。
つまり、あの苦しい体験を何度も追体験してしまう。


それだけでも苦しいのだが、ナワーブを襲った苦しみはそれだけではなかった。


2. 皆が普通にできることができない「弱い自分」を突き付けられ苦しい

皆はBJモードで楽しそうに遊んでいるのに、自分はトラウマが呼び起こされてしまいBJモードを「怖い」と感じる「今まで知らなかった『弱い自分』」を思い知らされ苦しい。

皆にできることが自分にはできない、耐えられないと知ってしまい、その程度のことが耐えられない「弱い自分」を突き付けられる。


ナワーブの場合は、この苦しみがさらにグルカ兵時代の苦しみを呼び起こす。

ナワーブの故郷では「家族を養うためにグルカ兵として東インド会社に従軍し、仕事を退役までやり切る」ことが"普通"で他のグルカ兵は皆それを"普通"にやっていたのに、自分にはその"普通"が耐え切れず逃げてしまった。


仲間の"あいつ"が最期に敵軍に一矢報いるために自爆し、自分がそれに関与するなんてことは、軍人として戦争に参加すればおそらく度々生じることである。
軍人であれば乗り越えるべきで、他のグルカ兵たちは"普通"だと割り切って受け入れていることを、自分は数年経った今でも乗り越えられずにいる。


皆が"普通"にできることが、俺にはできない。
皆が"普通"に耐えられる苦痛を、俺は耐えることができない。


ナワーブはグルカ兵として生きる道から逃げ出した時点で、「俺は他のグルカ兵より弱い奴だ」とコンプレックスを抱えていたのではないか。
そのコンプレックスを隠すために、荘園では自分を強く見せていた。

しかしBJモードでトラウマが呼び起こされたことで「弱い自分」が露わになり、自分が本当は弱い人間だと皆にバレてしまった。「俺は本当は弱い奴だってバレた、終わった……」と、ナワーブは絶望に打ちひしがれた。


3. 見ないようにしていた、自分の過去の「過ち」「失敗」を突き付けられ苦しい

自分はまた過ちを犯してしまった。しかも自分が犯した過ちによって、一人の人間の命が失われてしまった。

あのとき自分が折れずに、俺が自分の気持ちを曲げずに、あいつを連れて行けばよかった。
そうすれば、あいつは死ななかったかもしれない。俺はこの手であいつを殺さずに済んだかもしれない――。


あの時のことを思い出すたびに、自分はまた嘘が見抜けず、正しい選択ができなかったのだと突き付けられる。
自分は「うまくやれない奴」だと思い知ってしまう。
自分は重い罪を犯したのだと、思い出に突き付けられる。


4. 「過去の傷を直視するのが怖い」と思う「弱い自分」がいるのが嫌だ

5. 「弱い自分」を見たくない

6. 「自分は弱い人間」であることを直視したくない


ナワーブは「俺は強い」と思っていた。「俺は強い」と信じたかった。
しかし「自分は弱い奴だ」と現実を突き付けられたことで、その幻想は粉々に砕かれた。

人はみな「自分は弱い、非力な人間だ」と認めたくないものだが、強くあることを求められる軍人のナワーブであれば尚更だ。


思い出すだけで苦しくなってしまう辛い思い出と向き合うのは、本当に怖い。
「自分は弱い奴だ」という現実を受け入れ、向き合うのは本当に怖い。
過去の傷と向き合うのも、「自分は弱い奴だ」という現実を受け入れるのも怖い。自分はなんて臆病者なのか。



ナワーブがリッパーに罵倒されるシーンも、グルカ兵時代に上官から何度も罵倒され、自分を否定され、無力さを突き付けられたことをナワーブが思い出したかもしれないと感じ、見ていて辛かった。




それでもトレイシーやイライたち皆は、ナワーブが一番「弱い奴」に堕ちた時に励ましてくれた。
「ナワーブは強い男だ」と言葉をかけてくれた。



「自分は弱い奴だ」という現実を受け入れ、「弱い自分」を認めるのは本当に怖い。
怖いからこそ、「弱い自分」を認めるには物凄く勇気が要る。

「弱い自分」を認め、受け入れる。それができた男こそが、勇気ある「強い男」だ。


ナワーブは「弱い自分」を認め受け入れることができた、真の勇気ある「強い男」になった。




BJモードを十戦重ねたうち、ナワーブたちが勝てたのはたった一回だった。

でもその一勝はナワーブが己の過去と戦い、己自身と戦い勝利した証の一勝だ。
たった一回のこの勝利はナワーブにとって、いつまでも眩い輝きが失われることのない勲章になったことだろう。




Ep.2 B公演、自分の過去のトラウマが呼び起こされて本当に辛かった。

「辛い過去と向き合うこと」「弱い自分を認めること」は勇気が要る。
辛い過去に向き合い、弱い自分を認められる、勇気ある強い人間に私もなりたいと思えるようになった。
弱い自分に向き合おうと、私も思えるようになった。